JMLAの出版物・報告書 将来計画委員会

2012/02/09
将来計画委員会中間報告-2000年5月-
全国調査「日本における臨床医に対する情報サービスの現状」

ワーキング・グループ

山口直比古(東邦) 阿部信一(慈恵) 平吹佳世子(慶應)
真下美津子(連中) 諏訪部直子(杏林) 牛沢典子(東邦)

Ⅰ.目的

この調査の目的は、保健・医療・福祉の分野で、その従事者や国民が「確かな情報(資料)を」「だれでも」「どこでも」そして「いつでも」入手できることを目標に、そのための情報環境整備の戦略を検討することにある。中でもEBM(科学的な根拠に基づく医療)を支援するための、情報提供機能はどうあるべきかを示し、新たな方法論を模索するものである。本アンケート調査は、その一部分として、保健・医療・福祉分野の従事者の情報利用の現状を分析し、現在の医学・医療情報の流通の問題点を洗い出すことを目的としている。

Ⅱ.方法

全国の開業医および勤務医に対して、郵送によるアンケート調査を実施した。回答は無記名で同封の返信用封筒にて返送してもらった。郵送先は、医籍総覧(医事公論社)の最新版(東日本版:76版1999年発行、西日本版:75版1998年発行)からの無作為抽出法によって決定した。抽出方法は、東日本版2694頁、西日本版2469頁の各奇数頁の先頭の医師を抽出した。勤務医などで住所が不明な場合は、その次の医師を対象にした。最終的な送付数は、北海道から沖縄までの2373人であった。

Ⅲ.結果

2000年1月31日(月)に発送、回収期間は2月1日(火)~2月22日(火)の3週間で、949通の回答があった。(宛名不明での返送:33通、死亡等による返送:7通)。回収率は、40.68%だった。各項目の結果は以下の通り。

1.基本データ
1)業務種別(開業医・勤務医) (図1)
開業医     73.0%
勤務医     19.2%
開業及び勤務医  5.6%
その他      1.6%
無回答      0.6%

2)臨床経験年数 (図2)
5年以内     0.4%
6~10年    2.8%
11~20年  17.9%
21年以上   78.5%
無回答      0.3%

3)入会している医学関係の学会数 (図3)
最低0  最高30  平均3.17

4)購読している医学雑誌数 (図4)
最低0  最高40  平均4.18

5)医学・医療情報を得るために使う年間費用 (図5)
0円       1.5%
1~1万円    2.2%
1万~5万円  20.0%
5万~10万円 31.0%
10万円以上  43.5%
無回答      1.8%

6)パソコンの所有 (図6)
1 はい 63.0%  2 いいえ 36.4%  無回答 0.6%

7)FAXの所有 (図6)
1 はい 94.5%  2 いいえ  5.3%  無回答 0.2%

8)電子メールの利用経験 (図6)
1 はい 39.3%  2 いいえ 60.2%  無回答 0.5%

9)メーリングリストの加入 (図6)
1 はい 14.8%  2 いいえ 83.7%  無回答 1.6%

10)無料のMEDLINEの利用経験 (図6)
1 はい 19.1%  2 いいえ 79.8%  無回答 1.2%

11)医学中央雑誌の利用経験 (図6)
1 はい 45.3%  2 いいえ 52.7%  無回答 2.0%

2.医学・医療情報を必要とする目的(複数回答) (図7)
診療のため ・・・・・・・・・・・ 91.3%
患者への説明のため ・・・・・・・ 58.8%
学会や研修会で発表するため ・・・ 28.8%
著作出版のため ・・・・・・・・・  9.7%
テレビや新聞での報道を確認するため 16.3%
知人から得た情報を確認するため ・ 14.9%
学会や研修会での情報を確認するため 34.9%
専門分野の現状を把握するため ・・ 63.2%
専門外の知識を得るため ・・・・・ 54.0%
スタッフの指導・教育のため ・・・ 25.1%
法令などを確認するため ・・・・・ 12.1%
地域行政を確認するため ・・・・・ 12.6%
その他 ・・・・・・・・・・・・・  1.4%

3.医学・医療情報を得るメディア・人・組織(複数回答) (図8)
雑誌 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 93.5%
学会や研修会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78.2%
辞書や教科書などの図書(CD-ROM等を含む)・・ 44.8%
テレビ・ラジオ・ビデオ・新聞 ・・・・・・・・・・ 31.1%
データベース(医中誌・MEDLINE・PubMed・Cochrane等) 21.6%
インターネット(HP・ML・NG・EJ等)・・・・ 23.8%
知人・同僚 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39.4%
医師会のネットワーク ・・・・・・・・・・・・・・ 30.1%
啓蒙パンフレット ・・・・・・・・・・・・・・・・ 17.6%
ダイレクトメール ・・・・・・・・・・・・・・・・ 12.4%
その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  2.5%

4.医学・医療情報を実際に入手する手段(複数回答) (図9)

大学図書館(母校を含む)・ 27.3%
病院図書室 ・・・・・・・ 18.0%
公共図書館 ・・・・・・・  4.1%
行政機関 ・・・・・・・・ 10.3%
医師会 ・・・・・・・・・ 54.5%
インターネット ・・・・・ 27.6%
知人・同僚 ・・・・・・・ 42.6%
製薬会社の担当者 ・・・・ 64.5%
方法がない ・・・・・・・  1.6%
その他 ・・・・・・・・・  8.6%

5.日常入手できる医学・医療情報の満足度 (図11)

満足 ・・・・・・・ 14.9%
やや満足 ・・・・・ 38.6%
どちらともいえない  26.3%
やや不満 ・・・・・ 11.4%
不満 ・・・・・・・  4.6%
無回答 ・・・・・・  4.1%

6.医学・医療情報を得るときに困ること(複数回答) (図12)

的確な情報が得られない ・・・・・・・・・・・・・・・・ 40.8%
時間がかかりすぎる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41.5%
費用がかかりすぎる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20.4%
図書館などで情報入手のための適切なアドバイスを得られない  9.7%
コピーや画像の品質がよくない ・・・・・・・・・・・・・  4.5%
複写依頼や問い合わせに応じてくれるサービス機関がない ・ 17.4%
その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  5.1%

7.医学・医療情報を得るときにあると便利なもの(複数回答) (図13)

情報の検索から文献の入手まで代行してくれる機関 ・ 46.2%
的確な文献情報が検索できる使いやすいデータベース  48.7%
自由に利用できる医科系大学図書館 ・・・・・・・・ 20.8%
情報入手方法を知るための講習会 ・・・・・・・・・ 15.5%
情報入手のためのコンサルタントサービス ・・・・・ 15.0%
入手した情報を適切に管理や処理するためのサービス  17.7%
文献や情報入手についてのわかりやすい本やビデオ ・ 23.0%
その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  2.1%

Ⅳ.考察

1.調査対象の属性

回答者全体の業務の種別は、開業医が73.0%、勤務医が19.2%だった。臨床経験年数は、21年以上が78.5%、11~20年が17.9%、10年以下が3.2%だった。平成8年度医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生統計協会)では、全国の医師のうち、開業医は30.1%、勤務医は65.5%であり、40歳以上が59.8%、40歳未満は40.2%となっている。今回の調査との差は、標本抽出に用いた「医籍総覧」によるものか、抽出方法によるものと考えられる。

2.調査対象の情報環境・情報経験

回答者のパソコン所有率は63%だった。「情報化白書1999年版」では、パソコンの世帯普及率は約20%と報告されているのと比べると、かなり高い割合になっている。ファクシミリについては94.5%と、ほとんどの医師が所有していることがわかった。
電子メールの利用率は39.3%だった。「通信白書1999年版」によると、インターネットの普及率は、企業で80%、事業所で19.2%、世帯で11%と報告されている。企業ほどではないにしても、年齢層が高いことを考えれば、インターネットの普及率としてはかなり高いと言えるだろう。

3.調査対象の情報利用習慣

医学・医療情報を入手する目的は「診療」が9割以上、媒体(または人・組織)としては「雑誌」が同じく9割以上で、それぞれ飛び抜けて高い数値を示している。一般に、臨床医は情報を求めるのに、医学文献を第一に使用すると言われるが、それを裏付けるものとなっている。また、入手する手段としては「製薬会社の担当者」が64.5%と最も高く、これも一般に言われている説が裏付けられたことになる。「大学図書館」や「病院図書室」の利用率の低い分を「製薬会社の担当者」「医師会」「知人・同僚」が補う形になっている。

4.属性による比較

1)開業医と勤務医による違い

開業医と勤務医それぞれの臨床経験年数は、「21年以上」が開業医で77.5%、勤務医で81.9%であった。厚生省の調査では、勤務医に比べて開業医の高齢化が報告されているが、本調査に関しては顕著な差は認められない。

①情報環境・情報経験
「パソコンの所有率」については、開業医60.3%、勤務医72.0%と、勤務医の方により普及していることがわかった。また、「電子メールの利用率」についても、開業医37.2%、勤務医44.0%で、これも勤務医の方が高くなっている。
データベースの利用経験では、MEDLINEについては、開業医の13.6%に対して勤務医が34.1%、医学中央雑誌については、開業医の39.4%に対して勤務医が67.6%と、いずれも勤務医の方がかなり高い率を示している。

②目的
医学・医療情報を必要とする目的について、開業医と勤務医でそれぞれ最も高い率を示したのは、ともに「診療」であった(開業医93.4%、勤務医86.8%)。また、2番目も同じで、「専門分野の現状把握」であった(開業医63.3%、勤務医63.2%)。
3番目以下については大きな違いが見られ、その差が著しいのは「学会・研修会での発表」で、開業医が20.1%なのに対して、勤務医は60.4%に上った。また、「著作出版」も開業医4.5%に対して、勤務医は28.6%、「スタッフの指導・教育」は開業医19.6%に対して、勤務医44.0%を示した。
一方、開業医の方が比較的高い値を示したのは、「患者への説明」で、開業医62.8%に対して、勤務医は46.7%だった。

③情報入手メディア
医学・医療情報を得るメディア(または人・組織)について、開業医と勤務医でともに高かったのは、1番が「雑誌」で(開業医92.4%、勤務医96.7%)、2番が「学会・研修会」であった(開業医77.8%、勤務医85.2%)。
両者の間で最も大きな差が見られたのは「データベース」で、開業医が15.3%なのに対して、勤務医は45.1%を示している。これは、後述する「大学図書館」や「病院図書室」の利用率とも関係していると思われる。

④情報入手経路
医学・医療情報を実際に入手する手段について、全体で最も高い値を示したのは「製薬会社の担当者」(64.5%)、次いで「医師会」(54.5%)であったが、開業医と勤務医とに分けて見ると、開業医は同様だが(それぞれ67.5%、61.0%)、勤務医は最も数値が高いのは「病院図書室」(56.6%)であり、次いで「製薬会社の担当者」(53.8%)となった。いずれにしても、開業医と勤務医双方にとって、「製薬会社の担当者」が大きな役割を果たしていることがわかる。
両者の間で最も差が大きいのは「病院図書室」で、先の勤務医に対して開業医は6.8%にすぎない。また、「大学図書館」についても、勤務医が46.7%なのに対して、開業医は21.5となっている。一方、開業医の方が高い数値を示したのは「医師会」で、開業医の61.0%に対して、勤務医は35.2%であった。
勤務医の「病院図書室」や「大学図書館」の利用率が高いことが、そのまま前項の「データベース」の利用率の高さに反映していると考えられる。
また、臨床医が情報を求める先として一般的に「仲間」が多いとされているが、本調査でも「メディア」としても「入手手段」としても「知人・同僚」が40%前後と高い値を示した。ただし、開業医と勤務医の間で大きな違いは見られなかった。

⑤問題点
医学・医療情報を得るときに困ることとして、全体では「時間がかかりすぎる」(41.5%)、「的確な情報が得られない」(40.8%)の2つが高い数値を示した。開業医については順番は逆になるが、やはりこの2つが上位を占めるのに対して、勤務医では「費用がかかりすぎる」が32.4%で2番目に高い値を示している(開業医は17.5%)。反対に、「的確な情報が得られない」は、開業医が43.7%であるのに対して、勤務医は31.3%と低くなっている。

⑥要望
医学・医療情報を得るときに、あったら便利と思われるものについては、全体の結果の上位2つ「情報の検索から文献の入手まで代行してくれる機関(以下、代行機関)」と「的確な文献情報が検索できる使いやすいデータベース(以下、データベース)」が、開業医および勤務医でも同様に上位2つを占めた。
両者で大きな差が見られるのは「データベース」についてで、開業医が44.3%なのに対して、勤務医は60.4%であった。

2)臨床経験年数による違い

回答者の臨床経験年数は、「21年以上」が78.5%と極端に高い結果になったため、他の項目は合わせて「20年以下」とすると21.2%となる。これらについて、「21年以上」をベテラン層、「20年以下」を若い層として、以下に比較してみる。

①情報環境・情報経験
「パソコンの所有率」については、「21年以上」58.9%、「20年以下」79.1%と、若い層により普及していることがわかった。また、「電子メールの利用率」についても、「21年以上」34.9%、「20年以下」56.2%で、これも若い層の方が高くなっている。
データベースの利用経験では、MEDLINEについては、「21年以上」18.7%に対して「20年以下」20.9%と若い層がやや高い数値を示したのに対して、医学中央雑誌については、「21年以上」が45.8%で、「20年以下」の43.8%よりも高い数値を示している。

②目的
医学・医療情報を必要とする目的について、「21年以上」と「20年以下」でそれぞれ最も高い率を示したのは、ともに「診療」であった(21年以上91.9%、20年以下89.6%)。また、2番目も同じで、「専門分野の現状把握」であった(21年以上63.4%、20年以下63.7%)。
3番目以下については違いが見られ、その差が大きい順に見ると、最も差が著しいのは「学会・研修会での情報の確認」で、「21年以上」が33.2%なのに対して「20年以下」は41.8%(+8.6%)であった。次いで、「学会・研修会での発表」が「21年以上」27.2%に対して「20年以下」34.8%(+7.6%)、「専門外の知識習得」が「21年以上」52.6%に対して「20年以下」59.2%(+6.6%)、「知人の情報の確認」が「21年以上」13.7%に対して「20年以下」19.4%(+5.7%)と、それぞれ「20年以下」の方が高い数値を示した。
「21年以上」の方が高い数値を示したものとしては、「スタッフの指導・教育」が「20年以下」の22.9%に対して25.8%を示した。

③情報入手メディア
医学・医療情報を得るメディア(または人・組織)について、「21年以上」と「20年以下」でともに高かったのは、1番が「雑誌」で(21年以上94.2%、20年以下92.0%)、2番が「学会・研修会」であった(21年以上80.1%、20年以下71.6%)。
両者の間で最も大きな差が見られたのは「インターネット」で、「21年以上」が20.5%なのに対して「20年以下」は36.3%(+15.8%)を示している。次いで、「知人・同僚」が「21年以上」37.2%に対して「20年以下」48.3%(+11.1%)と、若い層が高くなっている。
「21年以上」の方が高いのは、差が大きいものとしては「学会・研修会」(+8.5%)の他には、「啓蒙パンフレット」(+4.1%)、「ダイレクトメール」(+3.8%)となるが、「雑誌」および「図書」がそれぞれ約2%高い数値を示している。
これらから、「21年以上」のベテラン層は「雑誌」「図書」といった従来の資料から情報を得ているのに対して、「20年以下」の若い層は「インターネット」などのニューメディアや「知人・同僚」から情報を得ることが多いと考えられる。

④情報入手経路
医学・医療情報を実際に入手する手段について、「21年以上」と「20年以下」でそれぞれ最も高い率を示したのは、ともに「製薬会社の担当者」であった(21年以上63.4%、20年以下69.2%)。また、2番目も同じで、「医師会」であった(21年以上56.0%、20年以下49.8%)。
3番目以降についてもどちらも全体とほぼ同じような傾向を示しているが、数値的には大きな違いが見られる。最も差が大きいのは「インターネット」で、「21年以上」が24.7%なのに対して「20年以下」は38.3%(+13.6%)を示している。次いで、「大学図書館」が、「21年以上」25.1%に対して「20年以下」34.8%(+9.7%、「知人・同僚」が、「21年以上」40.9%に対して「20年以下」49.3%(+8.4%)と、それぞれ若い層の方が高くなっている。その一方で、「製薬会社の担当者」も、「21年以上」よりも「20年以下」の方が高い数値を示していて(+5.8%)、若い層の情報入手手段の方がベテラン層に比べて平均化していると言える。

⑤満足度
日常入手できる医学・医療情報についての満足度について、「21年以上」は「満足」および「やや満足」合わせて56.8%に対して、「20年以下」は41.3%を示した。反対に、「不満」および「やや不満」を合わせた数値では、「21年以上」が13.7%なのに対して、「20年以下」は24.4%となり、若い層の満足度が低いことがうかがわれた。

⑥問題点
医学・医療情報を得るときに困ることとして、「20年以下」が満足度の低さを反映して、どの項目も全体の数値よりも高くなっている。特に、「的確な情報が得られない」は、49.8%とほぼ半数に上っている。

⑦要望
医学・医療情報を得るときに、あったら便利と思われるものについても、「20年以下」の各項目の数値が全体的に高くなっている。特に「的確な文献情報が検索できる使いやすいデータベース」は65.2%で、「21年以上」の46.6%より18.6%も高い数値を示している。この他に、「自由に利用できる医科系大学図書館」(+6.1%)、「入手した情報を適切に管理や処理するためのサービス」(+5.3%)、「文献や情報入手についてのわかりやすい本やビデオ」(+1.7%)が若い層で高くなっている。
一方、「21年以上」の方が高いのは、「情報の検索から文献の入手まで代行してくれる機関」(+1.8%)、「情報入手のためのコンサルタントサービス」(+3.3%)となっている。
これらから、「21年以上」のベテラン層は、「代行機関」や「コンサルタントサービス」のようなサポートしてくれるサービスに対するニーズが高いのに対して、「20年以下」の若い層は、自分で情報を得るためのニーズが高いと考えられる。

5.情報習慣に見る満足度

医学・医療情報を実際に入手する手段として、最も多かったのは「製薬会社の担当者」で64.5%、次いで「医師会」54.5%、「知人・同僚」42.6%の順だった。
これらの中で、「満足」と「やや満足」を合わせた満足度の高いものを見ると、最も満足度の高いのは「病院図書室」で67.3%、次いで「大学図書館」60.2%、「インターネット」59.2%の順で、「製薬会社の担当者」54.9%、「医師会」57.8%、「知人・同僚」55.0%の方が満足度は低くなっている。
これらより、実際の利用率と満足度とは比例しないことがわかった。

6.情報環境・情報習慣による満足度とニーズ

1)情報環境・情報習慣による不満理由の比較

①「的確な情報が得られない」
医学・医療情報を得るときに困ることとして「的確な情報が得られない」ことを挙げた40.8%について現状を見てみる。
まず、現在情報を得ているメディア(または人・組織)については、全体との比較では、「データベース」をあまり使わないで(-3.8%)、「知人・同僚」に聞くことが多いようである(+3.2%)。他には、特に差は見られない。これらの回答者で、あると便利なものとして高い数値を示しているのは、やはり「代行機関」(53.2%)と「データベース」(55.6%)で、それぞれ約7%高くなっている。
次に、実際に情報を入手する手段については、「知人・同僚」(+6.8%)や「製薬会社の担当者」(+7.3%)の利用率が高くなっている。反対に、「大学図書館」(-2.5%)や「病院図書室」(-5.9%)の利用率は低くなっている。しかし、これらの回答者のうち、あると便利なものとして「自由に利用できる医科系大学図書館」を挙げたのは22.7%であることを考えると、この不満がそのまま「図書館」には向けられているわけではないことがわかる。

②「時間がかかりすぎる」
医学・医療情報を得るときに困ることとして「時間がかかりすぎる」ことを挙げた41.5%について現状を見てみる。
まず、現在情報を得ているメディア(または人・組織)については、最も高いの雑誌であるのは全体と同様であったが、比較的高い数値を示したものとしては、「学会・研修会」が全体の78.2%に対して83.8%だった。他には、特に差は見られない。
次に、実際に情報を入手する手段については、順位は同様ながら、どの項目も全体よりも高い数値を示している。なかでも、「大学図書館」(+8.2%)と「製薬会社の担当者」(+6.8%)が高くなっている。これらの回答者については、あると便利なものについても、すべての項目で全体よりも高い数値を示している。
これらから、メディアや手段を活用している医師ほど、「時間がかかりすぎる」という不満を感じているといえる。

③「費用がかかりすぎる」
医学・医療情報を得るときに困ることとして「費用がかかりすぎる」ことを挙げた20.4%について現状を見てみる。
まず、情報を得るために年間使う費用については、「10万円以上」とするものが53.1%で、全体の43.5%よりも高い数値を示し、実際に比較的たくさん使った上で、そのように感じていることがわかる。
次に、現在情報を得ているメディア(または人・組織)については、全体よりも高い数値を示しているのは、データベースが最も顕著で(+11.4%)、次いで、「学会・研修会」(+9.4%)となっている。これらの回答者について、あると便利なものについての回答を見てみると、全体よりもほとんどが高い数値を示しているが、特に「的確な文献情報が検索できる使いやすいデータベース」について、全体の46.2%に対して64.9%となっている。「代行機関」については全体よりも+3.3%であることを考えると、費用がかかることについて、「代行」してもらうよりも「データベース」そのものの改善が求められていると言える。

2)情報環境・情報習慣によるニーズの比較

①「情報の検索から文献の入手まで代行してくれる機関」
医学・医療情報を得るときにあると便利なものとして「代行機関」」を挙げた46.2%について現状を見てみる。
まず、現在情報を得ているメディア(または人・組織)については、全体の数値とあまり差は見られない。
次に、実際に情報を入手する手段については、「大学図書館」を挙げたものは、全体の27.3%に対して33.6%と高い数値を示している。また、「製薬会社の担当者」を挙げたのは、全体の64.5%に対して70.5%と高くなっている。
これらから、「大学図書館」にしても「製薬会社の担当者」にしても、現在すでに利用している人ほど、「代行機関」への要望は高いことがわかる。

②「的確な文献情報が検索できる使いやすいデータベース」
医学・医療情報を得るときにあると便利なものとして「データベース」を挙げた48.7%について現状を見てみる。
まず、実際にどんなメディア(または人・組織)を使って探しているか、全体の数値よりも高くなっているのは、「データベース」と「インターネット」だった。「データベース」は全体の21.6%に対して33.1%、「インターネット」は全体の23.8%に対して38.5%だった。
一方、医学・医療情報を得るメディアとして「データベース」を挙げたもののうちで、「使いやすいデータベース」がほしいとしたものは74.6%に上る。反対に、医学・医療情報を得るメディアとして「データベース」を挙げなかったうち、「使いやすいデータベース」がほしいとしたのは41.5%だった。また、医学・医療情報を得るメディアとして「インターネット」を挙げたものと挙げなかったものの間では、この差はさらに広がる(78.8%と34.3%)。これらから、「使いやすいデータベース」に対する要望は、現在すでにデータベースやインターネットを利用している医師の方により強いといえる。
この傾向は、実際に情報を入手する手段についても見られ、「使いやすいデータベース」があると便利だと答えたものは、全体に比べて「大学図書館」や「病院図書室」の利用率がそれぞれ高くなっている。特に、入手手段として「インターネット」を挙げたものは、全体の27.6%に対して44.6%に上る。

Ⅴ.結論

全体として、開業医が多く、ベテランの多い、という偏りを考慮に入れた上で、調査結果からわかることは以下のようになる。
情報環境については、ほとんどの医師はファクシミリを利用できる環境にあり、また電子メールに代表されるインターネットの利用も約4割に達している。
全体として、MEDLINEの利用経験は高くないが、医学中央雑誌は半数近くの医師が利用したことがあることがわかった。また、開業医よりも勤務医の方が利用経験者は多く、MEDLINEは勤務医の3分の1、医中誌は3分の2が利用経験があった。
医学・医療情報を必要とする目的は、「診療のため」という回答が圧倒的多数を占めた。一方、勤務医では「学会・研修会での発表」も高く、研究活動における要求の高さもわかった。また、臨床経験年数での比較では、「20年以下」の若い層は「学会・研修会での発表」や「学会・研修会での情報の確認」が高く、学会に対する参加意識の高さがうかがえた。
医学・医療情報を得るメディア・人・組織として、圧倒的に多かったのは「雑誌」だった。また、入手経路は、「製薬会社の担当者」と「医師会」が高い数値を示した。勤務医ではメディアとして「データベース」が、入手経路として「病院図書室」や「大学図書館」が高かった。勤務医は環境として、病院図書室や大学図書館を利用しやすく、したがってデータベースも利用する機会が多いのではないかと考えられた。一方、開業医は、それらを利用できない分を、製薬会社の担当者や地域の医師会に依存している現状がうかがえた。また、メディアも入手経路も、臨床経験年数「20年以下」の方が「インターネット」のようなニューメディアの率が高くなり、また「知人・同僚」も同様に高い数値を示した。若い層が医学・医療情報を入手する手段の多様さが現れていると言える。
現状に対する満足度では、若い層の方が低く、要望についてもベテランよりも全体的に高くなっている。また、現在の利用からみると、「病院図書室」や「大学図書館」を利用している場合の方が、「製薬会社の担当者」や「知人・同僚」よりも満足度が高いことがわかった。このことは、不満の理由として「的確な情報が得られない」を挙げたものが入手する手段として「製薬会社の担当者」「知人・同僚」が高くなっているのと同様である。しかしながら、その不満が図書館への期待には向けられていないこともわかった。
また、不満の理由に「時間がかかりすぎる」を挙げたものは、入手する手段として「製薬会社の担当者」も「大学図書館」もともに高い数値を示しており、様々な手段を利用しながら、時間についての不満感を感じていることがわかる。不満の理由を「費用がかかりすぎる」としたものは、「データベース」や「学会・研修会」の率が高く、実際に使う経費も高いという結果になった。そして、それらの不満感は、替わりにやってもらう「代行機関」ではなく、自分で利用できる「データベース」への期待に向けられている。
今後、あると便利だとの要望から見ると、すでに「製薬会社の担当者」でも「大学図書館」でも、すでに利用しているものほど、より便利な「代行機関」への要望が高く、「データベース」や「インターネット」についても、すでによく利用しているものほど、より便利な「データベース」への期待が高いことがわかった。

謝辞

本調査は、厚生科学研究班(平成11年度)の委嘱を受けて、実施したものである。