国立ヘルスサイエンス情報センターのあり方「国立ライフサイエンス情報センター(仮称)」推進準備委員会

2012/12/10

「国立ライフサイエンス情報センター(仮称)」推進準備委員会「国立ライフサイエンス情報センター(仮称)」推進準備委員会

ご意見をお寄せ下さいjmlajimu@sirius.ocn.ne.jp (中央事務局)

最終報告-改定版-はじめに

ヒトゲノムの全配列が解読された2003年は、ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造に関する論文をNatureに発表してから50周年に当たる歴史的な年であった。この50年間に急速に進歩を続けてきたバイオテクノロジーは、医学、生物学、農学、薬学、環境問題、エネルギー問題にまで及ぶ広大な領域にわたって変革の波を巻き起こしている。しかも、それは単なる技術の問題ではなく、その基盤にはライフサイエンスに包含される諸学問の領域を含む。すなわち、分子生物学を中核に、医学、生物学、農学等の諸学問を体系化したライフサイエンスに立脚した技術であり、国民生活の向上と国民経済の発展に大きく寄与するものである。

生命現象を解明し、それによって生命をコントロールしようとする科学と技術がライフサイエンスであり、バイオテクノロジーである。そこには生命を持つあらゆる生物、特に人間にとっての大きな倫理的問題が立ち現れてきた。しかしながら、生命倫理の問題は専門家だけで結論の導き出せるものではなく、理想的には地球規模の、現実的には少なくとも国民のコンセンサスが不可欠となっている。

かつて、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学で遺伝子組換え実験の是非が問題になったときに設置された審査委員会は無条件で研究続行を認めるという結論は出し得なかった。現代の科学技術は、社会的コントロールが一層強化されなければならないものであり、ライフサイエンスの方向と手段を制御するのは、社会全体の課題である。その制御を可能とする基盤となるものは、科学者側からの情報公開であり、国民一人ひとりが分け隔てなく情報を享受できる蓄積・流通のシステムである。情報の共有がこの問題に対応するための必須要件である。

平成13年3月に閣議決定された「第2期科学技術基本計画」では重要政策の一つとしてライフサイエンス分野の研究開発を挙げ、疾病の予防・治療や食料問題の解決などの国家的・社会的課題への対応を重視するとしている。今後、我が国が高度医療を推進し、広く国民の健康を保障していくためには、ライフサイエンス関連情報のネットワーク構築が求められるとしている。一方、現実には図書館をはじめとする従来からの情報基盤は様々な要因により行き詰まりを見せていて、研究者や医療関係者、患者、国民一般の情報要求に応える基幹的システムは存在していない。

これらのことを踏まえ、我が国におけるライフサイエンス情報の体系的かつ効果的な流通の体制を整備・構築するためには、国立医学図書館のようなセンター館的機能が必要不可欠であるとの認識に立ち、日本医学図書館協会はその実現可能性について検討するために、協会内に国立医学図書館(仮称)検討委員会を設置し、検討を進めてきた。なお、当委員会の構成には、時間の許される範囲内で他団体からも委員を委嘱した。第Ⅰ期には日本薬学図書館協議会、第Ⅱ期には日本農学図書館協議会と病院図書室研究会のそれぞれ協力を得て、委員として検討に加わってもらった。本報告書はこれまでの検討結果についての最終報告書である。

要約

Ⅰ.ライフサイエンス分野における国民のための情報利用基盤整備の必要性

1.我が国の国民の情報ニーズ

厚生労働科学研究班の平成11~13年度に行った医学医療情報に関する全国調査によれば、医師は製薬会社の担当者や医師会に情報入手を依存し、患者・家族および一般市民は他に飛び抜けてそのような医師を情報の拠り所としていた。医薬産業政策研究所の2003年に行ったアンケート調査では、病気や薬に関する情報を集めるための情報源は患者会に所属する患者は患者会とマスメディアが多く、一般生活者は本・雑誌、インターネット、家族・友人が多かった。さらに、(財)データベース振興センターがインターネット利用者を対象に行った2002年のアンケート調査では、今後利用したい情報として「医療・健康に関する情報」が最も高いことが示された。

2.我が国の政策課題

2001年3月に閣議決定された「第2期科学技術基本計画」では、国家的・社会的課題に対応した研究開発について、ライフサイエンス分野を始めとする4分野に重点が置かれた。また、科学技術・学術審議会は2002年6月に「ライフサイエンスに関する研究開発の推進方策について」をまとめ、文部科学省としての具体的な研究開発課題を抽出し、そのための基盤強化や環境整備の必要性が指摘された。さらに内閣総理大臣の主宰による2002年7月からのBT(バイオテクノロジー)戦略会議で、「研究開発の圧倒的充実」、「産業化プロセスの抜本的強化」、「国民理解の徹底的浸透」の3つの戦略と行動計画から成る「バイオテクノロジー戦略大綱」が決定された。厚生労働省は2003年4月、「医療提供体制の改革のビジョン」を発表し、患者主体の医療を実現するための具体的施策を提言した。その最初に「(1)患者の視点の尊重」という章をおき、患者・国民に対する医療機関情報、診療情報の提供と並び、主要な疾患に関する信頼性の高い医療情報の提供が挙げられている。

3.我が国におけるライフサイエンス情報環境の現状

1)国内関連機関の情報提供サービス

今日の我が国のライフサイエンス分野の情報の蓄積・流通は、個々の情報関連機関がそれぞれ単独に事業を展開し、役割分担の観点からまったく組織化されていない混沌とした状況にある。

2)文献データベースの利用

平成13年8月30日に科学技術・学術審議会が答申した「知的基盤整備計画-2010年の世界最高水準の整備に向けて-」の中で基盤の一つとして各種データベースの整備が挙げられているが、その中にはいわゆる文献データベースは含まれていない。

3)文献情報の入手

現在、国立情報学研究所(NII)が所蔵情報等を提供している大学図書館間の相互貸借システム(NACSIS-ILL)では協力館全体の所蔵雑誌数が年々減少していて、国内では入手できないものが増えてきている。近年急増している電子ジャーナルはここ数年のものであり、今後もしばらくは冊子体雑誌のコピーの提供は依然として需要が大きいと思われる。現在の文献提供サービスの問題点は高額な利用料金にあり、一般の利用を困難にしている。

4)冊子体資料の保存

国内におけるライフサイエンス情報の収集・保存状況は危機的な状況にある。国内資料の保存機能として期待される国立国会図書館についても、収集方針として臨床医学分野は除外されている。また、特定分野の情報資源確保を目的とした国立大学図書館の外国雑誌センター制度は、予算緊縮と外国雑誌価格高騰により、外国雑誌の受入タイトル数は1991年から2001年の11年間に3館合計で約1万タイトルから4千タイトルに激減し、その役割を十分に果たすことができなくなっている。

Ⅱ.国立ライフサイエンス情報センター(仮称)の機能

1.対象範囲

1)サービス対象

・研究者や医療従事者を対象にした生命科学情報センター的性格
・患者及び国民一般を対象にした健康情報センター的性格

2)情報の範囲

①医療従事者(医師・薬剤師・歯科医師・看護師・各医療技師等)に有益なライフサイエンス分野(医学・薬学・歯学・看護・保健・農学等)の文献等の一次情報及びそれらを加工した二次情報(知識)
②研究者に有益な学術情報やゲノム情報
③患者に有益な医学関連分野のわかりやすく正確な各種加工情報(知識)
④国民一般に有益な予防医学的情報や食品安全情報、東洋医学や代替医療関連情報
⑤医療従事者と患者に有益な医薬品情報及び臨床試験情報
⑥研究者と国民一般に有益な環境科学情報

2.必要な機能及び事業計画

1)企画・調整機能を根幹とする情報センター

今日の我が国のライフサイエンス情報の蓄積・流通は、個々の情報関連機関がそれぞれ単独に事業を展開し、役割分担の観点からまったく組織化されていない混沌とした状況にあることから、企画・調整機能がセンター館に求められる最も重要な機能であると思われる。国内関連機関の役割分担と協力関係を再構築し、円滑にするためには、図書館のみならず関係するすべての機関が集い、話し合うことが必要であり、情報センターはそのための調整役としての役割が期待される。その上で、個々の機関の努力や協力のみでは実行が困難な非採算的な情報関連事業や諸外国政府との取り決め等の役割を情報センターが担うことが望ましい。

2)情報センターに求められる機能

①ライフサイエンス情報の網羅的収集と保存機能

国内発行されたすべてのライフサイエンス分野の図書及び雑誌の網羅的収集及び保存のほか、要望の高い海外の資料を収集、保存する。また、電子ジャーナル等のネットワーク上の情報資源の組織的収集・整備を行い、アクセスを保証する。

②情報提供機能

研究者や医療従事者のみならず、国民一般のライフサイエンス情報に対する要望に応える。直接的な閲覧のほか、ネットワーク上での情報提供や郵送等による送付サービスなども含む。選択肢の多様さや受益者が負担する費用の低額化などにより、アクセスしやすい環境を整備する。

③国内所蔵情報整備機能

国内の医学関連団体(学会・研究会約700、教育・研究機関約1200)で発生するライフサイエンス情報の所蔵情報を作成・公開し、使いやすさや信頼性などの質を維持する。

④国内データベース/二次資料作成機能

国内の医学関連団体で発生するライフサイエンス情報の基本情報(書誌情報等)を作成、公開する。使いやすさや信頼性などの質を維持する。

⑤情報評価/情報加工機能

患者や国民一般のためのわかりやすく信頼性の高い情報の作成・提供・管理を行う。また、臨床の医療従事者が質の高い国内外のライフサイエンス情報を効率的に参照できるレビュー情報を作成・提供・管理する。さらに、基礎研究者が遺伝子配列情報などを効率的に同定・登録するためのコンサルタントサービスや代行サービスを行う。

⑥人材養成/研修機能

ライフサイエンス情報の収集・蓄積・流通に関連する各種知識・技術を有する専門家を長期的、計画的に育成する。また、訓練を受けた専門家による個人またはチームとしての活動の機会を設けるほか、継続的に知識・技術をキープアップできる訓練の機会を用意する。

⑦研究開発機能

新技術の応用や普及等について研究するほか、研究助成を行う。

⑧企画・調整機能

国内関連機関の役割分担と協力関係を再構築し、円滑にする。国内から海外に向けてライフサイエンス情報を発信するためのポータル機能と海外から情報を入手する際のポータル機能の両面を果たす必要がある。また、海外の情報政策に翻弄されないための戦略的なリーダーシップを取る。

これまでの経緯

75年にわたる日本医学図書館協会(JMLA)の歴史において、国立医学図書館に関する論議はこれまで何度となく行われてきた。昭和39年の広島総会における「医学文献情報センターの設置について」の審議以来、表にまとめたようにJMLA内においても活発な論議があり、関係省庁に対する様々な動きもあったものの(表1)、昭和55年の日本学術会議との協議を最後に20年以上もの間、これに関する議論も運動もないまま現在に至っている。

この間、我が国における医学医療情報流通は、NIST構想や医療情報システム開発センター設立など国レベルでの政策に関して様々な答申や動きはあったものの、外国雑誌センター館の発足を除けば現実にはJMLA各加盟館や医学中央雑誌刊行会などの民間の努力に多くの部分が支えられてきた。しかし、JMLA加盟館を含むこれらの努力はもはや限界に至っている。

第72回日本医学図書館協会総会(宇都宮、2001年)における将来計画委員会の最終答申の中の「国立医学図書館(仮称)創設の提言と運動」との提言を受けて発足された、国立医学図書館(仮称)検討委員会(以下、当委員会)は中間報告をまとめ、第73回総会(愛媛、2002年)で報告した。この中で、国立医学図書館(仮称)のような国家的事業は内外の識者を招いた設立委員会を組織化し、推進されるべきと提言された。その後、理事会での検討を受け、2003年9月に再発足した当委員会(第Ⅱ期)では5回の審議を重ね、検討したことについて最終報告としてここにまとめた。

参考資料

詳細

Ⅰ.ライフサイエンス分野における国民のための情報利用基盤整備の必要性

1.我が国の国民の情報ニーズ

JMLAでは厚生労働科学研究班の委託を受けて、平成11~13年度に医学医療情報に関する全国調査を行った。その結果によれば、医師は製薬会社の担当者や医師会に情報入手を依存していた(図1)。また、患者・家族および一般市民は他に飛び抜けてそのような医師を情報の拠り所としていた(図2・3)。

しかしながら、何より問題なのは医師がそのような情報に満足していないことで、同様に患者・家族および一般市民も満足していないのである。

また、最近では医薬産業政策研究所が2003年11~12月に、患者会に所属する患者および一般生活者を対象に行ったアンケート調査がある(回答数1,609人)。その結果によると、病気や薬に関する情報を集めるための情報源は、患者会に所属する患者は患者会が72%で最も高く、続いてマスメディアが占めるが、一般生活者は本・雑誌が63%でトップ、続いてインターネット、家族・友人が過半数を占めていた(図4)。

さらに、(財)データベース振興センターが1998年以降毎年行っている、インターネット利用者を対象にした商用データベースの利用に関する2002年11月のアンケート調査では、「今後利用したい情報」はわずかの差ながら「医療・健康に関する情報」が最も高く、インターネット利用者ではこの種の情報へのニーズが高いことを示している(図5)。

参考資料
2.我が国の政策課題

平成13年3月に閣議決定された「第2期科学技術基本計画」では、国家的・社会的課題に対応した研究開発について、ライフサイエンス分野を始めとする4分野に重点を置いている。平成13年9月には、総合科学技術会議において「分野別推進戦略」が策定され、以後5年間の重点領域として以下の7項目が示された。

①活力ある長寿社会実現のためのゲノム関連技術を活用した疾患の予防・治療技術の開発
②国民の健康を脅かす環境因子に対応した生体防御機構の解明と疾患の予防・治療技術の開発
③こころの健康と脳に関する基礎的研究推進と、精神・神経疾患の予防・治療技術への応用
④生物機能を高度に活用した物質生産・環境対応技術開発
⑤食料供給力の向上と食生活の改善に貢献する食料科学・技術の開発
⑥萌芽・融合領域の研究及び先端技術の開発
⑦先端研究成果を社会に効率よく還元するための研究推進と制度・体制の構築

また、科学技術・学術審議会は平成14年6月に「ライフサイエンスに関する研究開発の推進方策について」をまとめ、上記の重点領域について、文部科学省としての具体的な研究開発課題を抽出し、そのための基盤強化や環境整備の必要性が指摘された。さらには、内閣総理大臣の主宰による平成14年7月からのBT(バイオテクノロジー)戦略会議で、「研究開発の圧倒的充実」、「産業化プロセスの抜本的強化」、「国民理解の徹底的浸透」の3つの戦略と行動計画から成る「バイオテクノロジー戦略大綱」が決定された。

このような流れを受けて文部科学省でもライフサイエンス分野での研究開発の推進に取り組んでいる。ゲノム科学研究や発生・分化・再生科学研究、脳科学研究、がん関連研究、免疫・アレルギー・感染症研究、植物科学研究などの推進のほか、生物遺伝資源(バイオリソース)の整備や生命倫理・安全に関する取り組みも行っている。このような事業の特に情報に関係する部分については、科学技術振興機構(JST)や国立遺伝学研究所、東京大学医科学研究所、理化学研究所などの諸機関が大きな成果をあげているが、研究成果の蓄積・流通の重要な一部を占める文献情報については海外出版社の学術雑誌や米国のPubMedデータベースなどに依存し、情報管理の肝心な部分を握られた形になっている。また、インターネット上での情報公開や印刷物の作成などの努力が窺われるが、やはり研究者を対象にしているといった感を否めず、上記の戦略大綱で謳われるような「国民理解の徹底的浸透」のためには、よりわかりやすい情報の作成や入手しやすいシステムの構築が必要と思われる。

厚生労働省は2003年4月、「医療提供体制の改革のビジョン」を発表し、患者主体の医療を実現するための具体的施策を提言した。その最初に「(1)患者の視点の尊重」という章をおき、患者・国民に対する医療機関情報、診療情報の提供と並び、主要な疾患に関する信頼性の高い医療情報の提供が挙げられている。特に診療ガイドラインのインターネット等を通しての提供により、患者は必要な情報を得た上で治療を受けられ、医師等は最適な医療情報を参照しながら迅速で的確な検査や治療を行うといったイメージを描いている。

診療ガイドラインの公開については、担当する具体的な組織としては第三者機関である医療機能評価機構が当たっているが、諸々な事情から計画通りに進んでいない。また、診療ガイドラインは厚生労働省や各医学会の努力にもかかわらずまだまだ少なく、それらの提供だけでは患者や国民が必要とする情報を満たすことは難しい。その意味で、特に診療ガイドラインが作成されていない疾患や新しい治療法に関しては、文献情報を参照せざるを得ないのが実情であり、そのような情報の提供の仕組みを作ることも必要と思われる。

参考資料
3.我が国おけるライフサイエンス情報環境の現状

1)国内関連機関の情報提供サービス

今日の我が国のライフサイエンス分野の情報の流通は、個々の情報関連機関がそれぞれ単独に事業を展開し、役割分担の観点からまったく組織化されていない混沌とした状況にある。表2は国内の関連機関が文献情報を提供する対象についてまとめたものである。これらのほとんどが独自の判断で運営され、重複する部分も少なくない。また、特に、患者・家族や国民一般に情報が届いていない。

(表組 まだ)

医療関係者 患者・家族 国民一般  日本医学図書館協会のネットワーク ○ × × 一部公開館あり日本薬学図書館協議会のネットワーク ○ × × 一部公開館あり日本看護図書館協会のネットワーク ○ × × 一部公開館あり全国の病院図書館 ○ × × 一部公開館あり病院図書室研究会のネットワーク ○ × ×  国立情報学研究所 ○ △ △ 書誌・所蔵情報医学中央雑誌刊行会 ○ ○ ○ 費用的問題日本医薬情報センター ○ ○ ○ 費用的問題日本医師会(図書館) ○ × ×  日本看護協会(図書館) ○ × ×  国立国会図書館 ○ ○ ○ 臨床医学の一部未収科学技術振興機構 ○ ○ ○ 費用的問題国際医学情報センター ○ ○ ○ 費用的問題国立保健医療科学院研究情報センター ○ ○ ○  外国雑誌センター館(東北大・阪大・九大) ○ ○ ○ 地理的問題

表2 我が国における主なライフサイエンス情報提供機関とサービス対象

2)文献データベースの利用

平成13年8月30日に科学技術・学術審議会が答申した「知的基盤整備計画-2010年の世界最高水準の整備に向けて-」の中で基盤の一つとして各種データベースの整備が挙げられているが、その中にはいわゆる文献データベースは含まれていない。現在、一般の国民や患者に対するこの種のサービスは科学技術振興機構(JST)や医学中央雑誌刊行会(JAMAS)などのデータベース作成機関のほか、いくつかの代行業者が行っているが、それらの最大の問題点はいずれも高額な利用料金にあり、一般の利用を困難にしている。米国では文献情報のPubMedや一般向け医療情報のMEDLINEplusなどのデータベースが無料で提供され、米国のみならず世界中の一般の人々の健康や診療、研究に計り知れない大きな利益をもたらしている。しかしながら、これらは当然ほとんどが英語であることと日本の研究報告はあまり含まれていない。最近、国立国会図書館が雑誌記事索引の無料公開を開始して一部の情報は入手が容易になったが、臨床医学分野の文献についてはまだまだ少なく、国民のニーズを満たすために十分とは言えない。結果的に、患者や国民一般がライフサイエンス情報を得ようとすれば、マスコミやインターネット上の不正確な情報に依存することになる。

3)文献情報の入手

現在、国立情報学研究所(NII)が所蔵情報等を提供している大学図書館間の相互貸借システム(NACSIS-ILL)では協力館全体の所蔵雑誌数が年々減少していて、国内では入手できないものが増えてきている。図6はJMLA加盟館での所蔵雑誌数の減少を今後の予測も含めて示したものである。

医科系も含め大学においては近年外国雑誌の電子ジャーナルの契約タイトル数が急増していて、利用時間や場所に制限されないアクセス性や書庫を必要としない保管性などの点で、雑誌に関わるこれまでの多くの問題が一面では解決されつつあると言える(図7)。しかしながら、電子ジャーナルとして利用可能な年代はここ数年のものであり、電子ジャーナルでの購読の多くは伝統的な図書館間の相互貸借での利用が認められていない。また、MEDLINE (PubMed)の収録範囲が昨年1951年まで拡大され、検索結果から古い文献を必要とする場合も少なからず増えると考えられる。このような事情のため、今後もしばらくは冊子体雑誌のコピーの提供は依然として需要が大きいと思われる。

現在、患者や国民一般に対する文献提供サービスも、JSTやJAMASなどのほか、いくつかの代行業者が行っているが、最大の問題点はいずれも高額な利用料金にあり、一般の利用を困難にしている。また、著作権や出版市場への影響などの問題も関係するだけに、国の政策として利用しやすい妥当な対価での入手が可能なシステムが実現すれば、国民が利用するライフサイエンス情報の質の向上につながるものと確信する。

4)冊子体資料の保存

前項と関連して国内での収集・保存状況は危機的な状況にあり、一括して組織的に管理する機関が求められている。これまでこのような機能は、特に臨床医学分野の資料については、JMLAにおける分担収集・分担保存の活動など、個々の図書館の努力によって支えられてきた。しかし、医学図書館について言えば、1995年度には平均7万8千余冊の製本雑誌の所蔵があったのが、6年後の2001年度には平均7万2千余冊に減少している。ちなみに2001年度の製本雑誌の平均は1800冊余りであり、毎年のこれらの増加分に相当する製本雑誌が蔵書から除籍されていることがわかる。別の調査では国内で所蔵館がなくなった雑誌が1998年は19誌、2001年は31誌で、国内の所蔵館が2館以下になった雑誌は1998年は88誌、2001年には132誌というデータも報告されている。

国内資料の保存機能として期待される国立国会図書館についても、収集方針として国外刊行物の臨床医学分野における優先順位は低く、関西館も現時点では許容量を超過するものと予想される。また、特定分野の情報資源確保を目的とした国立大学図書館の外国雑誌センター制度は、予算緊縮と外国雑誌価格高騰により、外国雑誌の受入タイトル数は1991年から2001年の11年間に3館合計で約1万タイトルから4千タイトルに激減し、その役割を十分に果たすことができなくなっている(図8)。このような事情から、医学関連分野の雑誌の保存のためには、国立国会図書館の収集方針を変更するか、JSTやNIIなどでそのようなスペースを確保することが望まれる。資料保存のような性質の問題は、今の時代の問題であると同時に、将来の世代にとっても重要な問題であり、安易な散逸は許されない。しかし、現状のまま放置すれば、多くの貴重な資料が失われてしまうことになる。

参考資料

Ⅱ.国立ライフサイエンス情報センター(仮称)の機能

前項にまとめたような国民のニーズ、政策課題、既存組織の問題点等から、ライフサイエンス情報の蓄積・流通を取りまとめる、国の機関としての情報センターの創設が必要である。以下に、その対象範囲や必要な機能についてまとめる。

1.対象範囲

1)サービス対象

2)情報の範囲

①医療従事者(医師・薬剤師・歯科医師・看護師・各医療技師等)に有益なライフサイエンス分野(医学・薬学・歯学・看護・保健・農学等)の文献等の一次情報及びそれらを加工した二次情報(知識)
②研究者に有益な学術情報やゲノム情報
③患者に有益な医学関連分野のわかりやすく正確な各種加工情報(知識)
④国民一般に有益な予防医学的情報や食品安全情報、東洋医学や代替医療関連情報
⑤医療従事者と患者に有益な医薬品情報及び臨床試験情報
⑥研究者と国民一般に有益な環境科学情報

2.必要な機能及び事業計画

1)情報センターに求められる機能

上記の目的を達するために我が国に必要と思われる情報センター的機能として次の点が挙げられる。

①ライフサイエンス情報の網羅的収集と保存機能
②情報提供機能
③国内所蔵情報整備機能
④国内データベース/二次資料作成機能
⑤情報評価/情報加工機能
⑥人材養成/研修機能
⑦研究開発機能
⑧企画・調整機能

2)企画・調整機能を根幹とする情報センター

今日の我が国のライフサイエンス情報の流通は、個々の情報関連機関がそれぞれ個別に事業を展開し、役割分担の観点からまったく組織化されていない混沌とした状況にある。したがって、さきに挙げた8つの機能のうち、企画・調整機能が最も重要な機能であり、この役割が有効に果たされれば前掲の問題点の多くは解決されるものと思われる。
国内関連機関の役割分担と協力関係を再構築し、円滑にするためには、図書館のみならず関係するすべての機関が集い、話し合うことが必要であり、情報センターはそのための調整役としての役割が期待される。その上で、個々の機関の努力や協力のみでは実行が困難な非採算的な情報関連事業や、諸外国政府との取り決め等の役割を情報センターが担うことが望ましい。例えば、現在NIIやJSTなどで一部行われている、国内から海外に向けてライフサイエンス情報を発信するためのポータル機能と海外から情報を入手する際のポータル機能の両面を一元化したものや、海外の情報政策に翻弄されないための戦略的なリーダーシップを取れるような機能が望ましい。

3)ライフサイエンス情報センター(仮称)に求められる具体的機能と事業計画

①医学関連情報の網羅的収集と保存機能

国内で発行されるライフサイエンス分野の図書及び雑誌の網羅的収集及び保存のほか、要望の高い外国の資料の収集と保存。また、電子ジャーナル等のネットワーク上の情報資源の組織的収集・整備を行い、アクセスを保証する。

(事業計画例)

②情報提供機能

研究者や医療従事者のみならず、国民一般のライフサイエンス情報に対する要望に応える。直接的な閲覧のほか、ネットワーク上での情報提供や郵送等による送付サービスなども含む。選択肢の多様さや受益者が負担する費用の低廉化などにより、アクセスしやすい環境を整備する。

(事業計画例)

③国内所蔵情報整備機能

国内の医学関連団体(学会・研究会約700、教育・研究機関約1200)で発生するライフサイエンス情報の所蔵情報を作成・公開し、使いやすさや信頼性などの質を維持する。

(事業計画例)

④国内データベース/二次資料作成機能

国内の医学関連団体で発生する医学関連情報の基本情報(書誌情報等)を作成、公開する。使いやすさや信頼性などの質を維持する。

(事業計画例)

⑤情報評価/情報加工機能

患者や国民一般のためのわかりやすく信頼性の高い情報の作成・提供・管理を行う。また、医療従事者が質の高い国内外のライフサイエンス情報を効率的に参照できるレビュー情報を作成・提供・管理する。さらに、基礎研究者が遺伝子配列情報などを効率的に同定・登録するための各種支援サービスを行う。

(事業計画例)

⑥人材養成/研修機能

ライフサイエンス情報の収集・蓄積・流通に関連する各種知識・技術を有する専門家を長期的、計画的に育成する。また、訓練を受けた専門家の個人またはチームとしての活動の機会を設けるほか、継続的に知識・技術をキープアップできる訓練の機会を用意する。

(事業計画例)

⑦研究開発機能

コンピュータや通信等における新技術のライフサイエンス情報の流通への応用や普及等について研究するほか、その種の研究助成を行う。

(事業計画例)

⑧企画・調整機能

国内関連機関の役割分担と協力関係を再構築し、円滑にする。国内から海外に向けて医学関連情報を発信するためのポータル機能と海外から医学関連情報を入手する際のポータル機能の両面を果たす必要がある。また、海外の情報政策に翻弄されないための戦略的なリーダーシップを取る。

(事業計画例)

参考資料

Ⅲ.海外のモデル

1.米国国立医学図書館(National Library of Medicine : NLM)

図書館活動が医学・医療分野において最も進んでいる例として米国を挙げることには誰しも疑いを持たない。米国における医学図書館ネットワークは、我が国における実情とは異なり、非常に整備されたものとなっている。この背景には100年以上の歴史を有する、医学・医療分野の中央図書館である国立医学図書館(NLM)の存在があり、一方では、国の医療行政の中で“情報・通信”の問題が重要視され、国民の医療の向上と充実のため、その基礎として常に医学文献情報が必要であることが強調されてきている。このために図書館活動をはじめ、その他の医学・医療情報活動や研究活動に対しても多額の費用が用意されてきた。

現在のNLMの行っている事業は大きくは以下の7種類にまとめられる。

①収書と分類・目録 (Collections and Catalog)
②データベース (Databases)
③文献配布 (Document Delivery)
④生物医学情報関連研究・事業への助成 (Extramural Funding Opportunities)
⑤出版 (Publications)
⑥各種サービス (Services)
⑦教育・研修 (Training and Outreach)

NLMの設立当初(1961年)は直接的なユーザとしては図書館員が対象、1991年から医療専門家を対象に加え、2001年からは国民を対象にサービスを提供したように、段階的に(政策的に)発展した。1961年の予算は180万ドルだったのが、40年後の2001年には2億4600万ドルまで増加した(図9)。

また、この間の重要な変化として、全米の医学図書館ネットワークであるNational Network of Libraries of Medicine(NN/LM)の形成と、PubMedに代表されるような医療専門家個人をターゲットにしたサービスの開始の2点を挙げられている。

現在は、その長期計画(Long Range Plan 2000-2005)に基づき、以下のような点について重点的にサービスを進めている。

①国民一般のための医療情報サービス
②分子生物学情報システム
③コンピュータ生物学に関する教育・訓練
④将来の学術出版の方向性の明確化
⑤電子情報への永続的アクセスの保証
⑥基礎情報学研究
⑦世界規模での医療情報交換

2.英国国立電子健康図書館(National electronic Library for Health : NeLH)

英国では、National Health Service(NHS)が患者の治療と管理の改善と健康の不平等の是正のために最新の情報技術を導入することを目的として、1998年に情報戦略を作成した。その中で、国立の電子図書館(NeLH)が構想され、2000年の試行プログラム以降、構築が進められている。

NeLHの目的は、最良で最新の知識とその適用法の容易な利用を可能にし、健康と保健医療、臨床行為、患者の選択を改善することにあり、臨床医、経営管理者、国民、患者を対象に情報サービスを展開している。知識の容易な利用に関しては、アクセスまでの速さで表現されていて、コンサルタントや回診時の患者との会話のためには基礎的情報に15秒以内、同僚たちと患者について検討するためには構造化抄録やガイドラインに2分以内、トレーニングや専門教育には本文や資料全体に1週間以内と想定されている。

NeLHの構成は以下のようになっている。

①ヘルプデスクと仮想図書室(Virtual Branch Library)
②知識適用のガイドラインと審査
③知識
④NHSダイレクト・オンライン:患者情報
⑤知識管理

①の「仮想図書室」では特定の健康問題に焦点を当て、専門家に情報を提供するものである。②の「知識適用のガイドラインと審査」は、明確な知識を迅速かつ系統的に実際の現場で適用するためのNeLHの重要な柱で、情報源としてはNICE(National Institute of Clinical Excellence)ガイダンス・データベースやNeLHガイドライン・データベース、国家サービス基準、NHS学習ネットワークなどがある。③の「知識」は、膨大な情報へのアクセスを可能にすると共に情報を意思決定に利用できるように変換した知識へのアクセスをも可能にすることを目的に、外部評価委員による基準をクリアした知識のみを対象にしている。情報源としてはClinical EvidenceやCochrane Library、NHS経済的評価データベース、MEDLINE/PubMed、研究知見登録、HTA報告、DARE、効果的保健医療速報などがある。④の「NHSダイレクト・オンライン」は、患者や英国国民一般に対して良質で保証された患者のための情報を提供する。また、24時間利用可能な看護師によるコンサルタント・サービスも行っている。⑤の「知識管理」は、知識の生産から、伝達、蓄積、評価、利用、実践までの組織化で、知識生産、知識利用、知識管理の3つのトレーニングを行う。そのスタッフは、研究者、研究の利用者(患者、臨床医、管理者)、医療専門職の教育者、図書館員・情報専門職によって構成される。

NeLHは、英国の保健医療戦略の中における情報伝達機能として極めて目的志向的に取り組まれている。その前提として蓄積機能を担う大英図書館(British Library)の存在があり、我が国とは事情が大きく異なるが、英国におけるNeLHの計画から実行に至る先例からは、少なからず有益な情報が得られると思われる。

3.ドイツ国立医学図書館(Deutsche Zentralbibliothek fur Medizin)

ドイツでは国立医学図書館に関しては、かなり以前に、ケルン大学の医学部図書館の中に置かれた経緯もあり、日本よりその点では進んでいるといえる。数年前に、ドイツでも不況を反映して省庁、研究機関、図書館の大幅な再編・統合が行われており、我が国での状況を考えるとその点でも参考になる。ドイツの国立医学図書館は、数年前にケルン大学の医学部病院の建物に隣接して新館が建てられた。この新館は、ケルン大学の医学部図書館を兼ねており、その点では利用効率もよく、合理的と言える。

国立医学図書館のその他の事業としては、医学文献・医学データの調査・研究や文献の複写サービス(著作権の処理も行っている)、最近はメールでの電子的なデリバリーが増えた。また、ウェブでのデータベースの提供も準備していた。これは、DMDIという医学データベースのサービス機関とも提携して、実行しようとしていた。ケルン大学の医学部図書館も兼ねているため、学生や教員へのサービスも大きな仕事になっている。

全体としては、ゲノムデータベースなど医学情報の構築や利用に関する研究部門がどのくらい作れるかで、我が国の国立医学図書館の規模と役割が決まってくるように思われる。今後は、学術データベースのサポートが、研究の進展に大きくかかわるので、それを支える組織の重要性がましていることが、ドイツでの例からも明らかである。ドイツの国立医学図書館は一昨年の省庁再編により、環境関係の研究機関からも研究者が移動し、人員や研究部門の充実が図られたようである。ただし、実際は、他の環境関係の研究機関は廃止されたとのことで、ドイツのバイオ・環境関連の情報部門全体では部分的には縮小の面もあると思われる。

参考資料

提言

当委員会は、第Ⅰ期から数えると計10回の検討の中で、これまでの歴史的経緯を検証し、対象となる各層の利用者のデータを収集した上で、国内における現状のシステムの問題点をまとめ、さらに海外の事例も調査した。その結果、やはりライフサイエンス情報を扱うセンター館的機能は必要であるとの結論に至り、その機能と実現への事業案を提示する。

多くの専門分野に関係するライフサイエンス情報を専門家から国民一般にまで提供するということは、その規模や資金の面からも国家的事業として取り組むべき課題である。したがって、その設立のための運動は、関連する諸団体を糾合した国民的世論の盛り上がりをもって関係省庁に働きかけていくものとなろう。以下に、そのシナリオを提言する。

  1. ライフサイエンス情報を扱う関係団体の代表者により構成される推進会議を設置する JMLAはNPO法人として関係団体に呼びかけ、ライフサイエンス情報に関わる問題について討議する場を設けるための橋渡し役となる。
  2. 推進会議の下にライフサイエンス情報に関わる問題ごとの分科会を設置する 本報告書で挙げた問題点や、その他推進会議で必要とされた課題について、分科会を組織し、個々に検討する。必要なデータの収集を行い、関係団体の協力で解決できる範囲と困難な範囲を明確にする。
  3. ライフサイエンス情報の蓄積・流通に関する一般向け公開シンポジウムを開催する 我が国におけるライフサイエンス情報の問題を討議するシンポジウムを、各関係団体の会員を含む、国民一般に公開した形で、全国各地で継続的に開催する。
  4. ライフサイエンス情報を扱うセンター館的機能のモデルを構築する 上記のシンポジウムや市場調査を踏まえ、優先度の高い課題について、分科会のまとめた報告をもとに、推進会議はライフサイエンス情報センター(仮称)のモデルを構築する。その運営は関係団体の協力とボランティアによる。
  5. 既存の関係団体を再編成し、新たなセンター館的機関の創設を国に働きかける ライフサイエンス情報のセンター館的モデルでの経験を踏まえ、推進会議で関係団体の再編成の可能性とその不足を討議し、ライフサイエンス情報センター(仮称)創設のための分科会を新たに設置する。当該分科会は事業計画をまとめて推進会議に提出し、それを受けて推進会議は再編成と新設のための法的措置や予算措置を政府に対して要請する。

この提言のポイントは、いきなり政府に対してライフサイエンス情報センター(仮称)の設立を求めるのではなく、関係団体によるネットワークの形成と連帯から始めて、その運動の過程で政府へも働きかけていくという点にある。国による推進はともすると経済効果などの短期的国益を優先した議論に偏りがちである。例えば、臨床医学分野のバックナンバーの保存の問題は経済性や効率性を考えれば最重要の課題ではないかもしれないが、50年後、100年後の子孫にとって失われても構わない資料であるかどうかといった議論は、現代の価値観でのみ論じられるべきものではない。その意味で、NPOとなったJMLAをはじめとする関係団体の話し合いとネットワークによる運動こそ、より望ましい形のシステムを築いていけるものと信じる。もちろん、ネットワークによる推進には強みと弱みがある。強みとしては「多様性」と「責任の分担」が挙げられる。弱みは、組織の構造に明確さがないということである。推進会議やその分科会の設置は専門家による話し合いの場を設定することであり、公開シンポジウムの継続的開催は最終的に情報を受け取る国民一般の意思を反映する場を提供することになるであろう。

JMLAが40年来取り組んできた国立医学図書館設立に関する活動は、さながらギリシャ神話の巨石を押し上げては落とされるシシュフォスの悲劇を連想させる。しかしながら、それはまた多くの先人からの長年の夢でもあり、その実現に向けて今こそ迅速かつ着実な理事会の一層の努力と会員各位や関係団体の協力を期待するものである。

2004年5月報告

国立医学図書館(仮称)検討委員会

委員長 阿部信一(東京慈恵会医科大学医学情報センター)

委員  塩田純子(東京医科大学看護専門学校図書室)

委員  田引淳子(静岡市立清水病院図書館,病院図書室研究会)

委員  長塚 隆(㈱ジー・サーチ,日本農学図書館協議会)

委員  成田俊行(埼玉県立がんセンター図書館)

委員  藤沢靖子(杏林大学医学図書館) 委員  四方田均(鶴見大学図書館)

担当理事 磯野 威(国立保健医療科学院研究情報センター) 専務理事 殿崎正明(日本医科大学中央図書館)

委員会開催記録
第1回 2003年 9月 4日(水)14:00~17:00 東京慈恵会医科大学第一会議室
第2回 2004年 1月16日(金)14:00-17:00 東京慈恵会医科大学中央棟8階会議室2
第3回 2004年 2月 4日(水)14:00-17:00 東京慈恵会医科大学5階F会議室
第4回 2004年 3月 5日(金)14:00-17:15 東京慈恵会医科大学5階F会議室
第5回 2004年 3月26日(金)13:00~17:00 東京慈恵会医科大学E棟会議室

NPO日本医学図書館協会理事会一部改定
2005年8月8日改定

国立医学図書館(仮称)検討委員会「最終報告」への各地区及び個人会員からの意見

全体について

名称・用語について

日本医学図書館協会について

医学図書館の現状について

取り組み方について

患者・一般へのサービスについて

関係諸団体との連携について

国立医学図書館(仮称)検討委員会「最終報告」への各地区及び会員からの意見に対するコメント

【コメント】
本協会が単独で推進が困難なことを関係諸団体と共同して国や行政に働きかけていくことを目指しています。

【コメント】
すでにある機関やサービス、また計画中の動きとの棲み分けは必要です。現状は、対象の重複や欠落が見受けられ、それらの調整及びネットワーク化を提唱しています。

【コメント】
将来的にはすべての図書館が公開できれば望ましいと思われますが、実際には難しいところもありますので、そのような問題を補うために、患者・家族・一般が必要とする情報を「ライフサイエンス情報センター」として提供できるような事業を行っていきたいと思います。

【コメント】
最終報告で想定している「ライフサイエンス情報センター」はあくまでも仮称であり、関連団体との協議の中で機能や事業が確認された段階でよりふさわしい呼称について検討すればよいと考えています。

【コメント】
最終報告に対する意見を一言で述べれば「総論賛成、各論意見あり」ということのようです。個々のJMLA会員もそうですが、関連諸団体も事情は様々であり、「各論」の部分についていかに共通の問題点を整理し、協力関係を築いていけるかが、まずは重要であると考えています。「総論」が反対でない以上、そのような取り組みは進めるべきと考えます。

国立国会図書館からのご意見と対応について

○「最終報告―改定版―」(2004年5月)の記述の一部(下記3点)に現状と必ずしも一致しない箇所があり、誤解を招かぬよう検討頂けないか。
1.「3.我が国におけるライフサイエンス情報環境の現状」の「表2」における「国立国会図書館」の「臨床医学未収」
2. 「3.我が国におけるライフサイエンス情報環境の現状」の「2)文献データベースの利用」の文中「最近、国立国会図書館が雑誌記事の無料公開を開始して・・・、臨床医学分野などが含まれず、国民のニーズを満たすために十分とは言えない。」
3. 「3.我が国におけるライフサイエンス情報環境の現状」の「4.冊子体資料の保存」の文中「国内資料の保存機能として期待される国立国会図書館についても、収集方針として臨床医学分野は除外されており、新設された関西館も10年余りで許容量を超過すると予想されている」

【対応】

国立国会図書館と調整の上、以下のとおり修正することとした。

1.「臨床医学未収」は「臨床医学の一部未収」とする。
(国内資料は納本制度上、収集を行っている)

2.「臨床医学分野などが含まれず」は「臨床医学分野の文献についてはまだまだ少なく、」とする。(同上)

3.「収集方針として臨床医学分野は除外されており、新設された関西館も10年余りで許容量を超過すると予想されている」は「収集方針として国外刊行物の臨床医学分野における優先順位は低く、関西館も現時点では許容量を超過するものと予想される」とする。